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京都地方裁判所 昭和30年(ワ)500号 判決

原告 新聞共同販売所

被告 宮本武生 外四名

主文

原告に対し、被告宮本武生は金六十万三千七十円、被告今江義一は金五十九万七千五百二十円、被告大久保安市は金十八万七千二百二十円、被告野村一郎は金十四万一千四百七十七円、被告木原捨次郎は金九万一千四百五円及びこれ等に対する昭和二十七年十二月六日より完済まで年一割の割合による金員を支払え。

原告の不法行為を原因とする損害賠償請求並びに右を超える金員請求はいずれも棄却する。

訴訟費用はこれを四分し、その三を原告の負担としてその余を被告等の負担とする。

この判決は原告において被告宮本武生、同今江義一に対しては各金二十万円、被告大久保安市に対しては金九万円、被告野村一郎に対しては金五万円、被告木原捨次郎に対しては金三万円の各担保を供すればそれぞれ仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は「原告に対し、被告宮本武生は金百二十九万六千五百七十九円、被告今江義一は金百七万五千五百七円、被告大久保安一は金九十一万八千五百七十四円、被告野村一郎は金七十九万六千百六十五円、被告木原捨次郎は金五十七万一千三百八十一円及びこれらに対する各昭和二十七年十二月六日より完済まで年一割の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告等の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

一、原告は昭和二十一年三月各種新聞や各新聞社発行にかかる刊行物の共同販売を目的とし、京都市内特定地域の新聞販売業者を構成員として結成せられた団体で訴外太田義一をその代表者とするものであつて民事訴訟法第四十六条に所謂代表者の定めある法人格なき社団であるが、昭和二十八年十二月十六日その総会の決議によつて解散すると共に大伴常次郎、森岡盛太郎、岡本正次郎、小谷歳雄、奥富俊雄が清算人に選任せられ現在清算中である。

二、被告等はかねて新聞販売業を営んでいたが昭和二十六年七月以降原告に所属してその構成員となりそれぞれ販売店(原告支所)の長として原告の新聞販売の現業に従つて来たが、昭和二十七年十二月原告を脱退したものである。

三、原告においては従前より左の規約ないし申合わせが存した。すなわち、原告の構成員は原告が各新聞発行本社(以下単に発行本社と略称する)から買受けて構成員に送付した新聞、刊行物を購読者に販布し取扱部数その他に応じ原告の承認した一定額の範囲内において経費、報酬を支弁することとしてこれを右送付にかかる新聞代金額中より控除した上翌月五日までに原告に納金(仮りに損失を生じた場合でも右計数上の金額を納金)すべく、期日に遅滞したときは金百円につき一日金五銭の割合による遅延損害金を加算支払うべきこと等である。

四、被告等は昭和二十七年十一月末日現在原告に納金すべき別表第一末尾記載の各金員をそれぞれ原告のために保管していたところ前記脱退のころ擅にこれを費消して業務上横領し、原告に対しそれぞれ右各金員相当額の損害を蒙らせたものであるから、被告等はこれを原告に賠償すべき義務がある。

五、仮りに右四の主張が理由ないとしても、被告等は前記三記載の規約ないし申合わせにより別表第一末尾記載の各金員を原告に支払うべき義務がある。

六、よつて被告等に対し別表第一末尾記載の各金員及びこれらに対する履行期の後である昭和二十七年十二月六日より完済まで前記三記載の利率の範囲内たる年一割の割合による遅延損害金の支払を求める。

と陳述し、被告等の主張に対し

a、被告等の主張(二)の点につき、新聞共同販売制が昭和二十七年十一月末日を以て廃止され各発行本社専属の販売店による専売制に移行したことは認めるが、それによつて原告が目的事業の成功不能となり当然解散したとの点は否認する。原告はその後従前どおり、朝日、都、新大阪、大阪日々、日本経済、オールスポーツ、国際の各新聞をひきつづき取扱い、ただ京都、毎日その他一部の新聞の取扱いを廃止することとし結局その取扱新聞の減少を見たにすぎないのであつて原告の事業は昭和二十七年十二月一日以降も存続していた。ところが被告等は同年十一月二十五日原告を脱退する旨の申入れをなしたので原告は同年十二月四日の総会において右を承認し被告等を除籍したものであるからその後昭和二十八年十二月十六日の原告総会に被告等を招集しなかつたのはもとより当然のことである。

b、被告等の主張(六)の点につき、昭和二十七年十一月分新聞代金は被告等がなお原告の構成員であつた当時の分であるところ、請求原因三に述べた如く原告は発行本社より新聞を買受けてこれを被告等に送付しその代金は被告等より原告に支払い原告においてあらためて発行本社に支払うべきものであるから、被告等が京都新聞ないし夕刊京都新聞の発行本社に代金を支払つても原告に対する右支払義務を免がれるものでない。

c、被告等主張(七)の(1) (2) につき、被告等は前記脱退に際し構成権を放棄したものであるから原告にその買取を求めることができないし、然らずとしても前記専売制の実施により各発行本社との間に直接の新聞販売契約をなしていた原告は各発行本社との間の契約に基いて代償金等の名義で金員の交付(実際上は原告の各発行本社に納付すべき新聞代金との相殺による)を受けたけれども、原告とその構成員である被告等との間には右支払につき何等の約定も成立していない。すなわち原告は専売制に移行することによつて朝日新聞その他ひきつづき販売し得る新聞以外の、毎日、京都、産経、英文毎日、中毎、小毎、夕刊京都、京都夕刊、新関西、大阪、スポーツ日本等の各発行本社より合計金五百九十五万六千四百八十七円の所謂代償金を受領したこととなり、原告はその総会の決議によつて別表第六の基準に基き各構成員に分配すべき旨立案し、これを被告等に提示しその諒解を求めた。ところで右基準による被告等への分配金は別表第七のとおりであるが被告等はこれを不服として応じないため原告はこの分配案を撤回し以来被告等との間に何等の妥結を見ないのである。

d、被告等主張(七)の(3) につき、その主張の信認金は原告が被告等より預つたものでないから原告にはその返還義務がない。

と述べ、

立証として、証人中島武男、那須武雄、重坂顕二の各証言、原告代表者太田義一、奥富俊雄各本人尋問の結果を援用し、乙第二号証の成立を認め爾余の乙各号証の成立は知らないと述べた。

被告等訴訟代理人は「原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、答弁として、

(一)  請求原因一中、原告が昭和二十一年三月各種新聞や各新聞社発行にかかる刊行物の共同販売を目的とし京都市内特定地域の新聞販売業者を構成員として結成せられた団体で訴外太田義一をその代表者とするものであつて、民事訴訟法第四十六条に所謂代表者の定めある法人格なき社団であつたこと、昭和二十八年十二月十六日の原告総会において解散決議をなし大伴常次郎他四名を清算人に選任する旨の決議をなしたものであることはいずれも認める。

(二)  しかしながら右解散決議及び清算人選任決議は無効であつて大伴常次郎他四名は原告の代表資格を有しない。すなわち、原告は右の如く新聞、刊行物の共同販売を目的とするものであつたが後記のとおりその共同販売制は昭和二十七年十一月末日を以て廃止され各発行本社専属の販売店による専売制に移行することとなつた結果原告は目的たる事業の成功不能により同日を以て当然解散し、その所属構成員たる販売店としては将来いずれの発行本社の専売店となるかを決定しなければならなくなつた。そこで被告等五名は諸種の事情により京都新聞の専売店になるべき旨を表明し専売制移行後右専売店となるに至つたのであつて元来原告の構成員は被告等をも含めてすべて朝日新聞系に属し専売制移行後も被告等を除きすべて同新聞の専売店となつたため恰も被告等が原告を脱退したかの印象を与えるけれどもその故を以て原告の構成員たる身分を喪つたわけではないから、原告は被告等をも招集した上総会を開くべきであるのにかかわらず原告主張の総会は被告等に対する招集を欠くものであつて右総会においてなされた前記決、議は無効である。

(三)  請求原因二は脱退の点以外すべて認める。被告等は原告を脱退したものでなくただ新聞販売制度の変化に伴い京都新聞の専売店となることに決定しただけであり、この点は(二)に詳述したとおりである。

(四)  請求原因四は否認する。

(五)  請求原因五中被告等が原告に対し別表第二の(f)記載の金員の限度において支払義務を有していたことは認めるが、その限度を超える部分は否認する。

(六)  右別表第二中京都新聞ないし夕刊京都新開への既払代金は、従来の共同販売制当時ならば原告を通じて納金していたものであるが、専売制に移行するに伴い京都新聞の専売店を志した被告等はもはや原告を通ずる要のないものと解し直接右発行本社に納金したもので原告は被告等の右納金により京都新聞ないし夕刊京都新聞に対する右同額の新聞代金支払義務を免がれたものであるからこれを被告等に請求することを得ない。

(七)  被告等は原告に対し左記の各債権を有し、本訴においてその請求の意思表示をなすと共に原告の被告等に対する右債権と対等額において相殺する。

(1)  構成権買取代金債権

昭和十六年に新聞販売事業が統制されるまでは各発行本社に専属する専売店があつて、朝日新聞の京都市内での販売については太田義一が一手にこれを引受けており同市内の各地区に同人に所属する販売店が存在していたところ、同年末共同販売制に移行したとき太田義一は権利金を得てその販売権を各地区の販売店に分譲し、以後この分譲された権利を有する者が共同販売制の下において単に朝日新聞のみならず他の各種新聞をも販売し得るものとして認められるに至り、且つその権利は販売権または得意先権とも呼ばれ時の相場によつて譲渡し得たのであつて原告においてはこれを構成権と称した。ところが各発行本社の都合から前記昭和二十七年十一月末日共同販売制が廃止せられ翌十二月一日より各発行本社に専属する専売店による販売制に移行したため原告は所属構成員のためにその損害補償の趣旨で各発行本社に対し後記代償金のほかに右構成権の買取を要求して交渉した結果各発行本社との間に同年十一月分の新聞代金は一応各販売店に留保し将来構成権買取代金及び代償金の数額の決定をみる際には対等額で相殺勘定する旨の合意が成立し、その後構成権一口の単価を金二百四十円とし各構成員の有する構成権の口数を右単価に乗じた金額を以て構成権買取代金とすることの諒解ができ、原告はすでに各発行本社との間に右決済を了したのであつて被告等の有する右構成権口数は別表第三記載のとおりであるからその各代金は同表末尾記載の額となる。よつて原告は被告等に対し同表記載の各金額を支払うべき義務がある。

(2)  代償金債権

前記共同販売制の廃止、専売制への移行については新聞販売店としてはかねてよりこれに反対を表明していたのに一方的に各発行本社の都合によつて強行せられるに至つたものであるし、他方販売店としては将来原則として自己の所属しようとする発行本社の新聞、刊行物以外取扱えなくなることによりその収益の減少は避けがたいこととなつた。そこで原告は所属構成員のために各発行本社に対し右損害の補償として代償金を支払うべき旨要求交渉した末その間に各販売店の昭和二十七年十一月分取扱にかかる各新聞部数を各新聞別に定めた単価に乗じた金額が各発行本社より原告を通じて各構成員に支払われることとなり被告等についてはその金額は別表第四末尾記載のとおりである。

(3)  信認金払戻債権

原告の構成員は各発行本社に対し各自の取扱部数を基準として算出された金額を取引の保証のために信認金として納付していたが、右納付は原告を通じ原告の責任においてなされたものであり且つ発行本社は毎年半期ごとにその利息を原告を通じてその構成員に支払つていた。したがつて前記専売制への移行に伴い各発行本社はこれを一応各販売店に返還することとなり原告において一括してその構成員のためにこれを受取つた上それぞれ返還すべきものであるところ、被告等の右信認金の額は別表第五に記載のとおりである。

以上原告の本訴請求は理由がない。

と述べ、

立証として、乙第一号証の一ないし三、第二号証、第三号証の一、二を提出し、証人花田辰信(第一、二回)、美馬太五郎、石丸廉、大西三之助の各証言、被告本人宮本武生、今江義一の各尋問の結果を援用した。

理由

一、原告の当事者能力について

原告が昭和二十一年三月各種新聞や各新聞社発行にかかる刊行物の共同販売を目的とし京都市内特定地域の新聞販売業者を構成員として結成せられ団体で訴外太田義一をその代表者とするものであつたことは当事者間に争いがなく、原告の構成員の店舗は原告支所と称せられ、右構成員は原告が各発行本社から買受けて構成員に送付した新聞、刊行物を購読者に販布して原告より送付した新聞代金相当額より取扱部数その他に応じ原告の承認した一定額を経費、報酬として控除した金額を翌月五日までに原告に納金(仮りに損失を生じた場合でも右計数上の金額を納金)すべき旨の規約ないし申合わせの存したことは被告等の明らかに争わないところであり、且つ以上はいずれも本件全立証に照して真実と認められ、さらに証人上坂顕二、原告代表者太田義一、奥富俊雄各本人の併述をあわせ考えると原告は定款を有してこれにより運営され、はじめ委員会後に理事会と称する意思決定機関を備えていたこと、その構成員は新聞販売事業をなすために後記六に説示する構成権を出資したものであることを認められ、以上各事実を考えあわせると原告は民法上の組合であつて且つ民事訴訟法第四十六条に所謂代表者の定めある権利能力なき社団として当事者能力を有するものとなすべきである。

二、大伴常次郎他四名の原告代表権について、

被告等は大伴常次郎、森岡盛太郎、岡本正次郎、小谷歳雄、奥富俊雄がいずれも原告を代表する権限を有しないと主張するので以下この点について考えよう。ところで原告が昭和二十八年十二月十六日の総会において右大伴常次郎他四名を清算人に選任する旨決議したことは当事間に争いがなく、ただ被告等は、当時なお被告等が原告の構成員たる身分を有していたのにかかわらず原告は右総会開催につき被告等に対する招集手続をとらなかつたから同総会における清算人選任決議は無効だとするのであり、原告は被告等が昭和二十七年十一月原告を脱退したのだから被告等を招集せずしてなした右総会の決議はもとより有効だと主張するのであるを以て、問題の焦点は被告等が原告主張のとおりこれを脱退したか否かにしぼられるわけである。証人中島武男、原告の代表者太田義一本人の供述中には端的に被告等が昭和二十七年十一月を以て原告をやめたとする部分があるけれども、これだけでは果して被告等が法律上有効に原告を脱退したものであるか否かを判断するに不十分であるから当時の事情を今少しく詳細に検討してみると、昭和二十七年十一月末日を以て従来存在した新聞共同販売制が廃止せられその後は各発行本社に専属する専売店がその発行本社の新聞、刊行物を販売する所謂専売制に移行することとなつたため、各販売店はそれぞれどの発行本社の専売店となるべきかを決定する必要に迫られたこと、原告の構成員はすべて朝日新聞系に属し被告等もまたこの例外でなかつたこと、被告等以外の原告構成員は右専売制への移行に際し朝日新聞の専売店になることとしたが被告等だけはこれに合流せず京都新聞の専売店になる旨表明して同年十二月一日以降その表明どおり同新聞の専売店になつたことはいずれも後記六に認定するとおりであり、また証人中島武男、重坂顕二、原告代表者太田義一、奥富俊雄の各供述をあわせ考えると同年十一月当時原告の構成員は被告等五名を含めて約四十名であつたこと、専売制に移行した後も前記昭和二十八年十二月十六日の解散決議をなすまで原告は朝日新聞発行本社の諒解の下に朝日のほか日経、都、国際、オールスポーツ、大阪、大阪日日等の各新聞を扱いその取引方法、代金決済方法等は前記一に記載したとおりであつたこと等の事実が認められる。

右各事実を考えあわせると、昭和二十七年十一月当時原告の団体意思は将来朝日新聞専売店を以てその構成員の資格とする旨決定せられており被告等はこの資格を自ら放棄したものというべきところ、一般には団体意思に副わない構成員もその団体にとどまることは何等差支えなく、団体意思形成の手段として用いられる多数決原理自体右前提の上にはじめて成立するものというべきであるが、右の如く団体が特定の資格を有する者によつて構成せらるべき場合にその資格を自ら放棄した者はその放棄によつて当然右団体の構成員たる地位を喪うものというべく被告等は結局昭和二十七年十一月を以て原告を脱退したものとせねばならない。そうすればその後である昭和二十八年十二月十六日の総会開催に際し原告が被告等に対する招集をしなかつたことは当然であつて右総会における前記清算人選任決議は有効であるから大伴常次郎他五名は原告を代表する権限を有するものである。

三、請求原因四について

被告等が昭和二十七年十二月頃原告主張の金額中別表第二の(g)に記載の金額を原告に支払うべき義務を有していたことは後記四に説示するとおりであるが、当時被告等がその特定の金員を原告のために保管していたとかこれを費消横領したとかについてはこれを認むるに足る立証がないから不法行為を理由としてなす原告の請求は失当として棄却を免がれない。

四、請求原因五について

被告等が原告に対し別表第二の(5) 記載の金額につき支払義務を有することは被告等の自認するところであり、同金額は原告主張金額たる別表第一の(1) ないし(6) の和から同表(a)(c)の和を控除したものに等しい。原告はそのほかに別表第一の(7) 記載の金額を主張するけれども、いくらの元本に対する何時からの利率いくばくのものかを認むべき立証なく、また右金額は未収利息と称されているものの遅延損害金であること原告の主張自体に徴し明らかであるところこれを元本に組入れて複利計算(原告は本訴において右金額に対する遅延損害金をも請求している)し得ることの根拠に関する立証もない。ところで他方別表第二の(5) 記載の金額より控除すべきものとして、被告等は別表第二の(a)ないし(d)を主張するのであるが、そのうち同表(c)については後記五において述べることとし、同表(a)は原告主張の別表第一の(b)に等しく、別表第二中(b)の金額は被告宮本、同今江、同木原関係では原告主張別表第一の(d)に等しく、ただ被告大久保関係において同被告は金七千百二十五円となすのに対し原告は金四千八百七十五円の限度において争わずこれを超ゆる金額については何等の立証がない。また被告野村は別表第二の(b)につきこれに該当するものを主張していないけれどもこの点は原告自体別表第一の(d)に示す如く金四千五百円を以て控除すべき金額だと自陳する。次に同被告関係での別表第二の(d)金額についてはこれを認める立証がない。

以上によれば被告等の原告に支払うべき新聞代金等は便宜別表第二の(g)に掲げた金額となる。

五、被告等主張(六)について(別表第二の(c)関係)

被告等が別表第二の(c)記載の金額を京都新聞ないし夕刊京都新聞の各発行本社に直接支払つたことは原告の明らかに争わないところである。ところで昭和二十七年十一月は被告等がなお原告の構成員であつたこと前記二において示したとおりで、原告の構成員と原告と、発行本社との間の新聞取引、代金決済方法は前記一に触れたとおりであるから、発行本社としては元来被告等より直接に新聞代金を受領すべき権限がないわけであるけれども、若し右被告等の支払によつて原告が利益を受けたとするならば民法第四百七十九条に則りその利益の限度において被告等の原告に対する債務は消滅し原告は本訴においてこの相当額を請求し得ない事理である。しかしながら証人石丸廉、大西三之助の各供述によると、京都新聞発行本社では専売制発足とともに同新聞の専売店となる販売店からは昭和二十七年十一月分新聞代金の直接支払を受けこれを専売店の権利金としたこと、京都新聞以外の専売店となるところ(原告も前記二に述べたとおりそれらに該当するものを構成員とする一つの単位である)からは右代金の支払を受けなかつたが、一面京都新聞発行本社としては同新聞の販売資格を失うものに対し後記代償金を支払うべき必要がありしかもその数額について合意を見ないまま専売制へ移行したため右決済が延引していること当時他の発行本社関係でも右と同様な状態にあつたこと等が認められる。

右認定によれば被告等の直接支払によつて原告がいくばくの利益を得たか、すなわち原告が京都新聞ないし夕刊京都新聞発行本社に対する新聞代金債務のいくばくを免がれるに至つたかは未だ確定し得ないものと解するのほかなく、右直接支払によつて原告が同額の利益を得たとなす被告の主張は採用することができない。

六、被告等主張(七)の(1) (2) について

被告主張(七)の(1) に関し原告は、被告等が原告を脱退した際その構成権を放棄したものだから、その買取代金債権を有しないと主張するので、以下所謂構成権の意義を検討して右主張の当否を考えよう。

証人中島武男、美馬太五郎、重坂顕二、花田辰信(第一、二回)、原告代表者太田義一、奥富俊雄各本人、被告宮本武生、今江義一各本人の供述を綜合すると、戦前京都市内においては太田義一が朝日新聞の一手販売権を有し株式会社朝日新聞京都販売店という名称の下にこれに属する販売店が同新聞の販売を行いこれに属しない者は同新聞を販売し得なかつたところ、戦時中の企業統制により新聞販売についても昭和十六年新聞販売統制会が組職されて同会を通し各販売店が全新聞の販売をなし得る所謂共同販売制の発足を見るに至り、従前の全新聞に関する販売権の総和を九万四千口とし、この区分された権利を持つものが統制会の下に各種新聞の共同販売をなし得るものとして取扱われ、当時からこれを構成権と称せられたが太田義一はそのうちの約六割の口数を保育し、曽つて同人に属していた被告宮本、同野村は各三千口、被告今江、同木原は各二千口、被告大久保は三千二百五十口を太田義一より分譲を受けて保有していた、戦後右統制会は解体せられたが共同販売制は依然存続することとなり昭和二十一年三月原告の結成をみ(ただし統制会のすべてが原告にひきつがれたというわけでなく、原告と同種の団体が他にも結成されたのである)被告等は前記構成椎をもつて昭和二十六年七月以降原告の構成員となつた(右原告への加入及びその日時は当事者間に争いがない)こと、原告においては専売制への移行に伴い被告等以外の朝日新聞専売店となつた構成員に対して朝日新聞に関しての構成権買取の問題が生じなかつたこと等の事実が認められる。右認定によれば構成権とは結局京都市内における新聞共同販売制下での新聞販売権であつてそれ自体財産的価値を有し取引の対象ともなつていたが専売制への移行に伴いその用語がその後存続しているか否かは別として現在では朝日新聞販売権に転化したものだというべきである。そうすれば被告等としては前記原告よりの脱退によつて当然に右構成権の財産的価値そのものを敢えて放棄したと解するのは困難であつて、他に特段の事情の発見されない本件においては被告等はその清算関係を他日に留保したものといわねばならないから、原告の右主張は採用し得ない。

次に被告等主張(七)の(1) (2) を一括して考察するに、右各証拠に証人大西三之助、石丸廉の供述を綜合すれば、元来新聞共同販売制の解消、専売制の実施は発行本社特に朝日、毎日新聞発行本社の要求に端を発し販売店の全面的な反対にもかかわらず強行されたもので、その結果販売店としては従来一店ですべての銘柄の新聞を販売できたのに爾後原則として特定の発行本社の新聞しか販売し得ないこととなり、販売店ではその損失の補償、慰労その他の意味を含めた給付を発行本社に要求していたが、原告ではその構成員のために結局代償金名義で計金五百九十数万円の給付を発行本社より受けとつたこと(現実の給付が相殺勘定によるかは別段問題ではない)、原告はこれが構成員への配分方法として別表第六によるべき旨を定めると共に将来朝日新聞の販売をしないこととなつた被告等には別に別表第七(d)記載の構成権代金を支払う旨定めたこと、代償金は結局発行本社の負担となるものであるが構成権代金は被告等が朝日新聞の販売をしないことにより原告の他の構成員が右に応じてそれだけ余分の同新聞販売権を取得するに至るため原告がこれに対応する金額をとりまとめて被告等に支払うべきものでその金額の基準は発行本社が定めるものであるが朝日新聞については結局構成権一口あたりの単価は金二百四十円と定められたこと等の事実が認められる。

右構成権代金の単価については被告等もこれに従うものであることその主張自体に徴し明白であり、ただ被告等の構成権保有口数において双方の主張に差が存するところ原告奥富俊雄本人の供述によると昭和二十七年十一月当時原告全体としての構成権保有口数が当初より減少した結果各構成員の保有口数は別表第七註に記載どおり修正されたことが認められ、右構成権口数の修正は前記代償金配分の方法と共に被告等が原告の構成員であつたことに関する事項であるから被告等としても、もとより原告の団体的意思決定に従うほかないものといわねばならない。そうすれば被告等の原告に対する構成権買取代金債権及び代償金債権は別表第七記載の額となる。そして被告等が右各債権に関し本訴昭和三十年十月二十日の口頭弁論期日に相殺の意思表示をなしたことは当裁判所に顕著であるから右相殺は前記金額の限度においてその効力を有する。また本件口頭弁論の全趣旨に徴すると原告は他の構成員との決済についても一般に新聞代金支払債務との相殺勘定によつていたことが認められるのであるから、右弁済期は被告等の新聞代金支払義務の弁済期たる後記昭和二十七年十二月五日だとなすべきである。

七、被告等主張(七)の(3) について

被告等がその主張の信認金を各発行本社に納入したことは原告の明らかに争わないところであり、当事者間成立に争いのない乙第二号証、証人重坂顕二の証言により成立を認める乙第三号証の一、二、証人重坂顕二、被告宮本武生、今江義一の各供述をあわせ考えると、信認金の右各発行本社に対する納入は原告を通じてなされ且つそれに対する利息も発行本社より原告を通じてその構成員に支払われていたことが認められるから発行本社と原告との間にその決済が済んだときは被告等としてはもとよりこれを原告に対して請求し得るものといわねばならないが、全立証に徴しても右の点を認めることができずかえつて右各証拠によれば前記専売制への移行にあたつて既納の信認金は各新聞発行本社間において振替操作により別個に精算せられることとなつたことが認められるのであるから被告等の右相殺の抗弁は採用によしない。

八、そして原告において構成員の原告に対する新聞代金等の支払は翌月五日を期限とするものであること前記一に示すとおりであり、期限に遅滞したときは金百円につき一日金五銭の割合による遅延損害金を附加して支払うべき旨の規約ないし申合わせの存したことは被告の明らかに争わないところである。

九、そうすれば別表第二の(g)記載の金額より前記相殺額を控除した主文掲記の各金額(円位未満切捨)及びこれに対する昭和二十七年十二月六日より完済まで右利率の範囲内である年一割の割合による遅延損害金の支払を求める限度において原告の本訴請求は正当として認容し、右を超える部分を失当としてこれを棄却する。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十二条、仮執行の宣言につき同法第百九十六条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 嘉根博正)

別表第一、別表第二、別表第三、別表第五、別表第四〈省略〉

別表第六

(イ) 構成権総数 八四、〇三四口に対し 一口につき 二一・二六

(ロ) 取扱部数総数 五八、四〇七部に対し 一部につき 二五・四九

(ハ) 構成員総数 四一人に対し 一人につき 二九、〇五六・〇三

(ニ) 統制会当時からの構成員総数 三二人に対し 一人につき 四六、五三五・〇五

別表第七〈省略〉

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